北米東洋医学誌の趣旨
北米東洋医学誌 (NAJOM)は 世界で需要の高い東洋医学、特に日本鍼灸の技術の普及、発展を促すフォーラムを提供する非営利団体です。私たちの使命は東西の治療家のネットワークを形成し、それぞれの知識と技術の向上に努める事です。
この目的追行の手段として
年3回の機関紙を日本語と英語で、印刷物とオンラインでのPDF版にて発行しています。国際的で多角的な専門誌として、特別なアプローチや視点を支持せず、 臨床テクニックに基づいた 東洋医学を普及させることが主目的です。東洋医学全般の伝統とその視点を尊重する北米東洋医学誌は、特に日本伝統医学の理論と実践に焦点をあてます。例として、治療において触診が重要な役割を果たす日本鍼灸、漢方、指圧、按摩、導引等が挙げられます。
日本の伝統医学は、千年以上の長い歴史に渡り発展し、東洋医学数々の様相やその展開を通して、理論の粋を集めた結晶となりました。現在、日本式鍼灸は世界中で実践され、今後も世界の各地でその土地の環境と必要性に応じて展開し発展を遂げていく事でしょう。北米東洋医学誌は日本の伝統医学と、今現在の実践の様相を紹介することによって、北米の東洋医学の発展に貢献していきます。
2025年11月号 Editorial
不安:敵味方
今号では、先輩や先生方が、「不安」と呼ぶ普遍的な「症状」について知識を共有している。東洋医学の非常に複雑で魅力的な細部を辿り、彼らは生命の正常な反応が、私たちの体のあらゆる細胞、臓器、経絡や経絡システムにどれほど深く関係するか明らかにした。不安は我々をより賢く、強く、敏捷にする。一方で、明らかな危機がないのに、死が目の前に迫っているかのように感じさせ、我々を脱線させる。
NAJOMの寄稿者たちの不安を捉える視点、また不安の有害なプレッシャーを緩和する革新的な手法は、現代医学が依然として用いる即効性重視のアプローチとは明らかな対照をなしている。ナイジェル・ドーズは冒頭でアメリカの不安障害をまとめ、向精神薬や睡眠薬への依存が、それらを服用する全ての理由よりも我々に不安を抱かせると指摘する。
寄稿者たちからまず学ぶのは、不安は「病気」ではないということだ。内科医として40年を過ごした後、精神医学に転じた山岡傳一郎は逆説的に、「不安がないことの方がむしろ心配だと言える。」と書いている。不安は、生存に不可欠な警告システムであるが、自然界の全てのものは、時としてバランスを崩すことがある。
また、不安は「頭の中だけの問題」ではない。複雑な全身的反応であり、異常が生じても単独で症状として現れることは稀である。フェリプ・カウデットは、名灸師・深谷伊三郎が「神経症」に感心を抱き、患者の重篤な病態の背後にある心因性要因を特定した手法を、彼の記事で明快に書いている。
水谷潤治は、不安が症状を引き起こすだけでなく、特に加齢に伴う症状が不安を生じさせ、これが症状をさらに悪化させるのだ、と書いている。
心身を統合的に捉える診断法は東洋医学では決して新しいものではないが、不安に対処する際には寄稿者たちは、私たちにより一層注意を払うように促している:我々の治療が決して局所治療だけになってはいけないという事だ。静かな問診、脈・腹部・経絡への軽快な触診は、心身に潜む不安の微細な居所を発見しそれを解きほぐす。高橋英生は文字通り「不安の匂い」を嗅ぎ分ける方法を教える。
治療において、NAJOMの寄稿者たちが提供するものは魔法の薬ではない。むしろ、各患者の現状に完全に応える、絶えず進化するツールキットである。猪飼祥夫が説明する通り「…100人の患者が心腎陽虚と診断されても、その症状の現れ方は100通り異なる…」
私たちは、臨機応変に考える能力を持つべきである。猪飼は、鍼治療に加えて、不安を抱える患者の過剰なエネルギーを放電するためのアース療法(電気的接地)と、彼が「あるがまま」と呼ぶ、拡張可能な空間で患者をさらに安定させるための仏教カウンセリングを取り入れている。そこでは、私たちの「敵」である不安が、私たちの「味方」になる。
同様に、パメラ・ファーガソンは、不安でベッドに横になることができない患者に対して、指圧療法とウォーキング療法を組み合わせている。また、屋内で、日本の「借景」と云う芸術を取り入れ、患者の新しい視野を開いている。操体の治療家・小松広明は、不安を抱える子供たちの治療は、まず不安を抱える母親の治療から始めるべきだと主張している。彼は、不安は周囲の人々に伝染するという科学的な事実をその根拠として挙げている。
ということで、編集者たちは、NAJOM 95を最初から最後まで楽しく読み、編集できるものにしてくれた各執筆者および翻訳者に心から感謝している。編集者のジョリーン・クラフトとサラ・バーグマンは、読者に、この誌面で共有されている洞察は、多くの場合、生涯の仕事の集大成であり、じっくりと読み、さらに研究する価値があるということを理解し感謝するように願っている。そして編集者ジェニー・クレイグは、次号掲載予定のナイジェル・ドーズ氏の続編を心待ちにしている。ボブ・クインはマーク・ペトルッツィ氏の原稿にアスタリスクを添えた:「この素晴らしい研究には資金が必要だ!」そして水谷潤治は岩下秀明氏の詩的な知恵に心を動かされこう記す:「視覚障害者の東洋はり鍼灸師は、自らの人生を視覚化することに強い関心を持っている。読者にもそのメッセージの深みを感じ取って欲しい。」
皆様のご協力に感謝します。そして、NAJOM
96号(2026年3月発行)のテーマは「身体の外部組織を治療することは内臓を治療することである」(締切:2026年1月1日)治療現場から、体表の治療が内臓とその機能に及ぼす影響について共有してください。古典理論や現代医学(生理学/生物学)の知見を組み込み、予想通りの効果と予想外の治療効果をもたらした症例報告を投稿してください。
平穏と存在感に満ちた日々を!
編集長 シェリル・コール


